壮絶な戦場を描いた「西部戦線異状なし」の言葉を失うラストに涙……!
ドイツの小説家エーリヒ・マリア・レマルクによる小説「Im Westen nichts Neues(原題)」が原作の、戦争をテーマにした映画「西部戦線異状なし」。
過去にも1930年と1979年に、2度映像化されている作品です。映像化3度目の今作は、映画作品としてエドワード・ベルガー監督が手掛け、2022年からNetflixで配信されています。悲惨な内容でありながら、英雄を夢見た兵士の生きる姿が描かれた作品として話題になりました。
2022年の8月には、第95回アカデミー賞において国際長編映画賞の作品賞をはじめとした、9部門にノミネート。そのうち4部門で受賞し、2023年には第80回のゴールデンクローブ賞でも最優秀非英語映画賞にノミネートされ、映画業界でもかなり注目を集めている作品です。
リアルな映像で伝えられるリアルな戦場の様子は、観た後に複雑な感情になり、感想を整理するための時間が必要な作品でした。
淡々と続くストーリーを追いながら、彼らがどんな結末へ向かっていくのかを解説します。
「西部戦線異状なし」あらすじ
作品の舞台は、第一次世界大戦中のドイツ。
かつて「西部戦線」と呼ばれたドイツ、イギリス、フランスをはじめとする連合国の戦いが行われている最中を描いています。
まるで灰に包まれたかのようなグレーの世界、そこに横たわる息絶えた無数の戦士たち。
プロローグだけでも、戦争がいかに悲しく無惨なものなのかを痛感させられます。
敵へ立ち向かっていく兵士たちも、次々と打ち込まれる銃弾に次々と倒れていきます。この場所で恐怖に震え、泣きながら銃を構える青年が、主人公のパウル・ハイマー。
「西部戦線異状なし」は第一次世界大戦が始まって、3年が経過した頃の物語。パウル・ボイマーはまだ17歳の青年。若いながらも友人たちと共にドイツ帝国陸軍に入隊し、兵士として実際の戦場に向かう様子を描いています。
国を救う英雄であるドイツ兵に憧れた青年が見た、残酷すぎる戦場の様子を文章から映像化した深い作品。原作にはないストーリーが追加されているのも注目のポイントですよ。
帝国陸軍に加入したばかりのパウル
パウルは「ドイツのために戦いたい!」という純粋で前向きな気持ちで帝国陸軍に志願します。3人の学友と共に入隊したおかげか、どことなく入学式の学生のような気分。
若き兵士たちに向けたスピーチを聞いているときも、気持ちが高揚しており、話す職員の動作を見て思わずクスクスと笑ってしてしまうほど。
この時代にはインターネットやテレビといったものがないため、戦場の様子を知る方法はありません。当時、17歳の少年が描く戦争のイメージはかなりふんわりとしたものだったのでしょう。
「必ず祖国が勝つ!」という漠然とした明るい未来に希望を抱き、パウルも他の少年たちもこのときはいい表情で戦場へ行くことを誓います。
パウルは軍服を受け取り、早く着たいという気持ちが抑えられません。しかし、自分専用として受け取った軍服には、なぜか他の人の名前が書いてあるタグが……。
急いでその事を告げに行くと、「彼には小さすぎたんだろう。」という意味深げな言葉を言われただけで、特に交換をすることはありませんでした。
その意味深げな言葉に隠された真意は、もっと後に出てくるシーンで登場しますが、意味を理解した瞬間はかなりゾッとしてしいます。もしかしたら、パウルたちはその事実を知らされることが無かったのかもしれません。
ついに西部戦線へ!
ついに西部戦線へと向かう日を迎えたパウルたち。まだまだ遠足のような気分が抜けていない様子ですが、すぐに状況は一変。
負傷した兵士たちを運びたいから降りてくれと、パウルたちが乗っていたトラックが軍医に止められてしまいます。
無傷のまま余裕で勝てるくらいの気持ちでいた彼らに、「負傷した兵士」というワードは、恐怖心を生むには十分だったでしょう。
結局トラックを降りて歩いて向かうことになるのですが、さらに衝撃的なことが起こります。何が起きたかはぜひ本編でチェックしてみてください。
もし自分がこの場にいる兵士の1人だとしたら、この出来事をきっかけとして早々にパニックになってしまうかもしれません。数秒後、数分後には自分の命が危険にさらされるかもしれないと……。
そして、相手を迎え撃つための場所に到着。見張り番を任されたパウルは、そこで見る景色や容赦なく飛んでくる爆弾・銃弾を目の当たりにして言葉を失ってしまいました。
集中砲撃に襲われシェルターに避難したパウルたち。しかし、その恐怖に耐えきれなくなってしまった友人ルートヴィヒが外に飛び出してしまったのです。
意識を失い、その後目を覚ましたパウル。彼はシェルターの瓦礫の下敷きになっていて、周りの景色を見渡すと先ほどと一変していました。怪我はなく無事だったパウルに任された仕事は、上司の兵士に「回収しろ!」と言われて渡された袋に、命を落とした兵士の名前が書かれたプレートを集めること。
この作業を淡々とこなしていったパウルの心は、すでに壊れ始めていたのでしょう。その過程で見つけた、友人ルートヴィヒのメガネ。そして、作業を進めていると変わり果てたルートヴィヒの姿を見つけ、パウルは何も言葉が出てきませんでした。
ただ祖国を救う英雄になりたいと願った少年が感じる絶望感が、終始伝わってきます。中には目も当てられないほどの辛いシーンも。
主人公のパウル・ハイマーを演じたのは、オーストリア出身の俳優フェリックス・カメラー。
他の出演作品を思わず探してしまいたくなるほどの演技力ですが、なんとこの「西部戦線異状なし」が初主演。そして、カメラの前で演技をしたのも初めてだというから驚き!
戦場に立ち、今まで経験したことのない恐怖と絶望を感じる兵士たち。とてもリアルに表現されている、彼らの感情の変化にもぜひ注目しながら観てください。
衝撃の結末へ
重く考えずにパウルたちが入隊した帝国陸軍。
過酷な状況の戦場にいる彼らですが、ずっと辛いことが続くわけではありません。戦いが落ち着いているときには友人と協力して「食材調達」としてスリリングな盗みをしたり、仲間たちと食事を楽しんだり、笑みのこぼれる瞬間も。
「もし今戦争が終わったらどうする?」という問い。パウルの答えは絶望の底に近いところにいながらも、辛うじて希望を失っていない人間の思考がこれなのかもしれないと思わせるものでした。
戦場に赴いていない上層部が、犠牲者をこれ以上増やさないためにと停戦を交渉しに行くシーンがあるのですが、これが原作にはないストーリーのひとつだそう。
交渉中にも現地にいる兵士たちの命は次々と失われていき、思わず目を背けたくなってしまいます。
「もうすぐ戦争は終わる」という希望だけを持って、なんとか生き延びるパウル。停戦交渉により、間もなく家に帰れると安堵できたように思えました。しかし、停戦交渉を行ったはずのトップから下された指示はパウルの希望を打ち砕くような内容だったのです……。
彼は無事に戦場から帰還することができたのか、思わず涙してしまうラストを見届けてください。
まとめ
「西部戦線異状なし」は生まれや育った国に関係なく、戦争のリアルや悲惨さがしっかりと伝わる作品です。
なぜたくさんの兵士たちが命を落とし、壮絶な戦いを繰り広げていたのにも関わらず「異常なし」というタイトルがつけられたのでしょうか? この答えはエピローグでぜひご確認ください。
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