音楽の巨匠バーンスタインの生涯にフォーカスした作品「マエストロ:その音楽と愛と」で彼の深い人生の意味を知る
クラシック音楽業界では知らない人はいないと言っても過言ではないほどの世界的指揮者、レナード・バーンスタイン。
彼の生涯を描いた作品「マエストロ:その音楽と愛と」がNetflixで配信がはじまりました。作品の内容の素晴らしさから、第96回アカデミー賞の7つもの部門にノミネートされ、音楽を愛する人々はもちろん、世界中から注目を集めています。
享年72歳でこの世を去るまでの彼の人生は、音楽だけではなく人間らしい愛情にも溢れていたそう。この作品を観れば、どちらに対しても情熱が注がれている姿を感じられるでしょう。
彼はどんな生き方をして、どのように音楽と愛に向き合ったのか、レナード・バーンスタインについて作品のストーリーを通して見えてくる人生の意味について考察してみました。
レナード・バーンスタインとは?
レナード・バーンスタインは、アメリカ出身の世界的指揮者。指揮以外にも作曲活動やピアニストとしても活躍していた多彩な人物です。
彼の家系に音楽に携わる人間はおらず、音楽を学ぶための環境が整っていたわけではなかったそう。しかし彼は幼少期に、蓄音機から流れてくる音楽に耳を澄ましていたらしく、生まれながらにして音楽に惹かれる素質があったようです。
彼はアメリカ人としては史上初となるニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団(現・ニューヨーク・フィルハーモニック)の音楽監督を努め、指揮者の小澤征爾の師匠でもありました。
日本にも7回訪問したことがあり、自身の監督するニューヨーク・フィルなどの、世界的オーケストラを携えてコンサートを開催したことも。
彼の名前を知らなくとも、ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」は知っている人も多いのではないでしょうか。
ウエスト・サイド・ストーリーで使われている曲の数々は、バーンスタインが作曲したもの。
中でも「シンフォニック・ダンス」は特に有名な曲。オーケストラのハーモニーが美しい名曲なので、ぜひ聴いてみてください。
そして、この天才バーンスタインを演じるのは、俳優ブラッドリー・クーパー。彼は俳優業だけではなく、映画プロデューサーや映画監督としても活躍する多彩な人物。
結婚式前夜の男たちのハチャメチャ劇を描いたコメディ映画「ハング・オーバー!」の2作目ではコメディ映画男優賞にノミネートされ、他にも様々な作品でアカデミー賞やゴールデングローブ賞などにノミネートされた経歴を持っています。
自身で監督を務め、出演もしている作品「アリー/ スター誕生」は、第75回のヴェネツィア国際映画祭で上映されるほど注目を集めました。
演じることだけではなく作品への作り込みもできる、天才のブラッドリー・クーパーが、「マエストロ:その音楽と愛と」では、実在した人物をどのように演じ、1本の作品として落とし込んだのか。ぜひ注目して鑑賞してみてください。
タイトルにもあるマエストロとは?
「マエストロ」とはイタリア語で「教師」や「達人」を意味し、英語圏ではオーケストラの指揮者を指す言葉です。
まさに、指揮者として大活躍したバーンスタインの人物像を表現しているタイトルではないでしょうか。冒頭のピアノを弾くシーンは、その繊細さからは「達人」というワードもイメージできますね。
タイトルだけではなく作中でも「マエストロ」と呼ばれるシーンがあり、沢山の人から尊敬されるような存在だったことがわかります。
指揮者はクラシック音楽を統率するために、いなければならない唯一無二の存在。指揮者の表現力によって曲の完成度が左右されるほど、重大な役割を担っています。
最初に指揮をするシーンでは、ニューヨーク・フィルの副指揮者だったバーンスタイン。本来の指揮者が体調不良のため、代わりにバーンスタインが当日ぶっつけ本番で指揮をすることに。それも、大舞台は初めての経験!
緊張で失敗してしまう可能性もある中で、彼は初舞台で大成功をおさめたのです。
もしこの日に指揮をしていなかったら、彼の才能が世に出るタイミングが遅れていたかもしれないと思うと、強運の持ち主でもあったようですね。
もちろん運だけではなく、実力があったことで世界的な天才となったバーンスタイン。
「マエストロ」としての人生がいかに凄く、素晴らしい世界だったのでしょうか。本当にそれを知っているのは本人だけでしょう。
音楽と「愛」と
「マエストロ:その音楽と愛と」では、バーンスタインの音楽家として活躍する姿だけではなく、妻のフェリシア・モンテアレグレとの深い夫婦愛についてもフォーカスしています。
俳優兼ピアニストでもあるフェリシア。若き日に知り合った2人は、それぞれの大きな舞台を互いに支え合いながら絆を深めていきました。
バーンスタインの素晴らしい才能に惚れ込み、共に人生を歩もうと決意したフェリシアでしたが、円満な夫婦関係が続いたわけではなかったようです。
フェリシアのことを愛す一方で、バーンスタインは同性愛者でもあったそう。
フェリシアの存在がありながら、愛人と思われる男性とやたら近い距離で接しているシーンも。
バーンスタインのことを全く知らないまま観れば、「この時代は人との距離がこんなに近いの!?」と混乱してしまうでしょう。
フェリシアとの間には3人の子供がいて、バーンスタインは妻子ともに深い愛情をもって接していたそう。それでも、次々と男性の愛人をつくっていたのだとか……。そのことを黙認していたフェリシアの気持ちを思うと、ちょっぴり複雑ですね。
フェリシアが舞台袖から、指揮を務める夫を見つめて煙草を吸うシーンは、一体何を思っていたのでしょうか? 絶妙な表情をする演技に注目です。
妻のフェリシアを演じたのは、「華麗なるギャツビー」や「プロミシング・ヤング・ウーマン」などで素晴らしい演技力を発揮したキャリー・マリガン。
「マエストロ:音楽と愛と」では、はたから見れば幸せそうですが、裏では悩み苦んでいるという、フェリシアの二面性を繊細かつ器用に演じています。
それでも、出会った頃や結婚したばかりの2人を描いたシーンは、誰もが憧れるような素敵な夫婦だったということが分かります。バーンスタインはただ浮ついていた性格というよりも、不器用で深い愛情をもつ性格だったのかもしれませんね。
それでも、妻のフェリシアからすれば、深い愛情は自分と子どもたちだけに注いでほしい、と思うもの。
天才は、なんでも器用にこなすわけではなく、どこか不器用な面もあるということをクーパーはあえてこの作品に落とし込んだのでしょう。
晩年のフェリシアは病気を患い、彼女の病状からあるときは仕事を断ることも。
バーンスタインが献身的にサポートする場面では、どんなに他に気があったとしても、この役割は夫である彼にしかできなかったのだろうと考えさせられるシーンの1つです。
まとめ
映画だということを忘れて見入ってしまう「マエストロ:その音楽と愛と」。マエストロとしてのバーンスタインがどんな人生を送り、何を思い考えていたのか。意味を考えながら見ると更に没頭できる作品です。
モノクロのシーンからカラフルなシーンへの切り替えも印象的。いろんな楽しみ方ができる「マエストロ」の物語をぜひお楽しみください。
Netflix映画「マエストロ:その音楽と愛と」独占配信中